冬、オホーツク海は大波が逆巻く時化が続きます。しかし、厳冬の先遣隊ともいうべき、砕け氷の白い帯が漂うようになると、海が静かになっていきます。水平線のかなたに控える流氷本体の大氷原が、波をしだいに押さえ込んでいくのです。そして、突如として海が消える日がやってきます。白い大陸と化した海。そこに屏風のように聳え立つ知床連山は、さらに白く、美しくも厳しい表情を見せます。その山々の深い雪の下では、ヒグマたちが春を待つ長い眠りについています。彼らの冬眠穴はどんなものなのでしょうか。 知床では、彼らはほとんど毎年のように新しい穴を自ら掘って使います。高山の稜線近くから、すぐ海に面した海岸斜面まで、冬眠穴はさまざまなところにありますが、個体ごとでは大体決まった場所の比較的狭い範囲の中で穴を掘っていることがわかってきました。
穴の構造は単純で穴口は一つ、奥行きは2〜3m。突き当りのやや広くなった奥に寝床があります。そこには周囲のササの葉や小枝が敷きつめられています。


妊娠したメスグマはここで出産と子育てをします。前の年に穴の中で子を産んだメスは、一夏を子グマと共に過ごして、もう一度いっしょに冬眠します。子グマと共に眠る母グマが用意する寝床は、単独のクマのものより、より大きく厚く作られています。母の愛情の表れでしょうか。 深い雪に覆われると、穴口は完全に埋まってわからなくなってしまいます。この雪はたくさんの空気を含んでいて、とても良い断熱材になるのです。厳冬期、外が氷点下20度にも下がっても、穴の中は大丈夫。自身が発する体温と厚い毛皮で、春までの快適な眠りが保証されるのです。 皆さんも、海が消えた雄大で不思議な景色を見に来てみませんか。この森のどこかでヒグマたちが眠っているのだなと想像しながら歩くスノーシューハイキングも楽しい季節です。

1月末、知床の海が消える日が近づいています。ある日突然オホーツクブルーを流氷が覆いつくし、海は大氷原へと姿を変えるのです。その変貌は長年知床に住んでいても毎年感動します。ちょうどその頃、森の奥の深い雪の下では、新しい命が生まれているはずです。暖かい冬眠穴で、子グマたちの春を待つ日々が始まります。皆さんも一度冬の知床に来てみませんか。



  (財)知床財団 統括研究員・事務局長 山中正実
http://www.shiretoko.or.jp/


知床の自然環境を調査・研究している知床財団が、「知床キムンカイ・プロジェクト(仮称)」を始動させます。ヒグマをはじめ野生動物の高密度生息地である知床は、世界自然遺産の登録による観光客増加から、人間との接近事故が心配されています。プロジェクトは問題解決へ向け、北海道内の専門家らがチームを結成し、2006年度から3年計画にて実施。GPS(全地球測位システム)にて、ヒグマの行動追跡ほか、体毛を採取してDNAを分析し、親から独立したクマがどのように移動しているかなども調査します。AIR DOは、ヒグマとヒトが共に生きる道を探る、安心して暮らせる知床を目指して、この活動を応援していきます。

 
 
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