3月。知床はまだ雪と流氷の白銀の世界。けれど、この地の涯にも春の足音がしっかりと聞こえてきます。日差しは確実に強く長く、サラサラだった粉雪は湿り気を帯び、しっかり締まって歩きやすくなってきます。永遠に動かざる世界とさえ見えたオホーツクの大氷原が躍動をはじめます。くっきりと割れた水路に、群青の海のさざめきがとても新鮮です。
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春早い時期から活動をはじめる単独のオスグマ。ヘリコプターからの写真 |
早起きのヒグマたちがもぞもぞし始めるのもこの頃です。その年初めての足跡は、長い冬が終わりつつあることを私たちに伝える力強いメッセージです。かつて春の海にきまって押し寄せたニシンは別名「春告魚」とも呼ばれましたが、ヒグマを「春告獣」と呼ぼうと提唱した人もいました。
キムンカムイプロジェクトでヒグマに取り付けられたGPS標識には、温度センサーも付いていて、日々のデータが蓄積されています。暖かい冬眠穴からもし外に出れば、その温度の変化が明瞭に記録されます。加えて冬眠穴の位置から移動するとGPSがそれをとらえるので、冬眠明けをはっきりと確定できるのです。2004年の冬に記録された4頭のメスグマのデータを見ると、冬眠中に出産して小さな子グマを連れているメスに比べ、単独のメスはより早く冬眠から覚め、穴から出るとすぐに大きく行動範囲を広げることがわかりました。これらのことは、これまでも観察や足跡の追跡から予想されていましたが、GPS標識はそれらをはっきりとデータとして示してくれたのです。今年も標識をつけたヒグマたちが深い雪の中で眠っています。彼らが出て来たときには、冬眠の謎を解き明かすいろいろなデータを私たちに提供してくれるでしょう。
春の暖かい日差しの中、きらめく雪の森を行くクロスカントリースキーがとても楽しい季節です。純白の知床連山、オホーツクブルーと流氷の海を一望にしながらのスキーは、知床ならではです。だけど、寝ぼけ眼のヒグマを驚かせないように、雪の上の足跡には気をつけてください。

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