SIRETOKO EYES




ヒグマはとても順応性の高い動物で、その生き様を変えていきます。この20年あまりで彼らの食物も大きく変わりました。
ヒグマは雑食性の動物で植物や昆虫も大好きです。あまり知られていませんが、基本的にはむしろベジタリアンで、草や木の実がおもな食物です。あのいかつい体でなぜ?と思われる方もおられるでしょうが、それは彼らの体をよく観察すると理解できます。ヒグマの犬歯は長く鋭いですが、奥歯は人間に良く似た臼型の歯で、草や木の実をすりつぶすのに都合の良い形になっています。犬や猫の仲間のような肉食の専門家の奥歯は、鋭くとがって上下が鋏のように噛み合って、肉を切るようにできています。長い爪も猫の仲間のように皮を切り裂くほど鋭くありません。この爪は獲物を捕らえるためではなく、好物の草の根を掘り起こすショベルの役割を持っているのです。ずんぐりした体は、犬の仲間のように長距離にわたって獲物を追跡するのにも適していませんし、猫の仲間のようにすばらしい跳躍力で飛びかかることも苦手です。
しかし、肉食が嫌いという訳ではなく、手に入りやすい動物質の食物があれば喜んで食べます。サケマスやエゾシカ、海岸に打ち上げられたイルカやクジラも大好きです。ただそれらが効率良くたくさん手に入るかどうかが選択の分かれ目です。その時々で、最も手に入りやすく、栄養価の高い食物を集中して食べるというのが彼らの流儀なのです。めんどくさがり屋で、食べやすいもの、好きなものばかり選り好みして食べる人っていますよね。そんな人を見ると、私たちは「クマみたいな食べ方やめろよ」と良く言います。ヒグマはコストパフォーマンスにちょっとうるさい偏食気味の雑食動物なのです。
そんな性質を背景に、彼らの食べ物は変わってきました。今、知床ではエゾシカが急増して、森や草原の植物の構成が大きく変わってきています。かつて、春から夏にかけて大量に食べることができたフキやセリの仲間の草本は、シカに食べられて減ってしまい、以前は見向きもしなかった種類の草を今は積極的に食べるようになりました。最大の変化は、エゾシカをたくさん食べるようになったことです。1980年代、数百個のヒグマの糞を調べても3〜4個の糞からしか出てこなかったシカの残渣が、今では春から初夏には調べる糞の半数近くから出てくるようになりました。
エゾシカは彼らの好物の植物を減らしてしまっている一方で、餌が不足する早春から栄養価の高い肉をヒグマに提供しているということになります。ヒグマにとってどっちが得なのか?これからの面白い研究テーマになりそうです。

  (財)知床財団 統括研究員・事務局長 山中正実
http://www.shiretoko.or.jp/


知床の自然環境を調査・研究している知床財団が、「知床キムンカイ・プロジェクト(仮称)」を始動させます。ヒグマをはじめ野生動物の高密度生息地である知床は、世界自然遺産の登録による観光客増加から、人間との接近事故が心配されています。プロジェクトは問題解決へ向け、北海道内の専門家らがチームを結成し、2006年度から3年計画にて実施。GPS(全地球測位システム)にて、ヒグマの行動追跡ほか、体毛を採取してDNAを分析し、親から独立したクマがどのように移動しているかなども調査します。AIR DOは、ヒグマとヒトが共に生きる道を探る、安心して暮らせる知床を目指して、この活動を応援していきます。

 
 
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